東京・深夜の新宿歌舞伎町 ◎3月15日◎
歌舞伎町一番街入口付近
深夜午前1時過ぎ、新宿歌舞伎町界隈へ到着。人通りはまばらだが、靖国通りにはスーツ姿のキャッチの群れがいくつか出来ていた。 パチンコ店やゲームセンターが営業時間を早めたり、臨時休業をしたりしているのと対照的に、風俗の無料案内所やキャバクラ、ホストクラブのネオンは明るい所が多い。 チェーンの居酒屋から出てきた、大学生くらいの酔った若者四、五人とすれ違う。この通りはいつもなら彼らのような若者でひしめいているのに、今日は彼らのほうが浮いている。
ネオンの消えた「歌舞伎町一番街」の看板の下でいわゆる「おさわりパブ」の呼び込みをしていた男性二人に話をうかがったところ、第一声は「ヒマになったね」だった。 しかし、計画停電に伴い電車の本数が減ったことを除けば、そこまで日常に大きな変化はないという。「新宿区は、節電もあまり関係ないからね」 政府やメディアの動きについて、特に思うところもないとのこと。 年齢は43才と30才。「職業は――グレーゾーンだからね。フリーターってことで」と笑った。
旧コマ劇場付近
一方、旧コマ劇場の裏手でキャバクラの呼び込みをしていた男性(26才)によると、客足が減ることもなく、いつも通りだという。確かに、歌舞伎町も奥の方まで来ると人通りが若干増え、どこからか「二時間本番で二万円ッ!」という声も聞こえる。「まァ、こういう場所ですからね。いろんなとこから人が働きに来ています。実家が被害に合った人は――帰った人もいるし、きょう働いている人もいますよ」
ゴールデン街の隣にある交番で勤務中の警察官に地震後、人々の混乱や事件等あったか尋ねると特に何もなく、警備や警戒を強めるということもなかったという。
このように、新宿歌舞伎町の夜は不気味なほど平和で、その住人はいつも通りの日々を淡々と送っていた。客足が少ないことについても、地震が云々というよりも「ここのところは景気が悪い」といった調子だ。むしろ、いま首都圏で騒然としているのは都心部よりもベッドタウンらしい。
何より驚いたのは、深夜の新宿のひとびとが、あまりに今回の地震に無関心だったということだ。話を聞いた人がたまたまそうだっただけなのかもしれないが、ここ二、三日、都市生活者が心配そうに被災地を案じ、節電や買い出しの苦労を語っている光景ばかりをテレビで見慣れてしまっている私は、軽い衝撃を受けた。あるいは、地震の翌日に街行く人の誰もが地震の話をしていたのとはだいぶ温度差があった。
(文責 : 稲葉秀朗)